牧神の午後の日記

オタク系の話題です

その前提では物足りない

 先輩の薦めもあって、清水勝彦さんの「その前提が間違いです」(講談社)を読む。
 コンサルタントをしていく上で、ロジカルに考えるということは重視するが、考えるに際しての前提条件/事実に間違いがあるのではないか?ということを考える必要があるということで、それは全く持ってその通り。と私のような阿呆もそう思う訳である。
 で、読んでみての感想だが、なんというか評価が難しい。ここに書かれてある前提は。一般に言われているものが多い前提で間違っているもの、を挙げていることになるのかもしれないが、実際のところ、何を当たり前のことを言っているのだ?というものも多かった。−−というよりも実際にコンサルティング(のようなもの)を行っているときに、前提を明らかにするだけではどうしようもないことが往々にしてあると感じるから。
 例えば、部門間の連携が上手く行かないことに対して、既成の前提は「組織の壁(分業/部門)をなくす」という解決を導くが、組織はセクショナリズムが前提(これは企業活動の最適化の過程で分業制ができたのだから)とするならば、対立を明確にし、コミュニケーションをどう図るかということを考える必要がある、というのが筆者の主張。これこそまさに「それは当たり前であって、欲しいのはその先なんだ」という部分にあたる。どこの会社でも「あいつの言うことは聞けない」とコミュニケーションすら拒絶する間柄の人間(人、それを犬猿の仲という)がいるのではないか?そうした人がプロジェクトのキーパーソンになっている場合、プロジェクトの調整をする人間は悲惨であるし、何よりもプロジェクトも失敗に終わることが多い。階層組織なんだから上の人間に言って、ということになるのかもしれないが、乏しい経験上、上の人間に言ったところで個人間の感情的とも言える軋轢はどうしようもない、というのが実情。
 さらに、「新規のアイデアはつぶされる」ということに対して、抵抗をなくすではなく、抵抗勢力にも判るように説明するというのはその通りなのだけど、正直な話、人は自分の聞きたい話しか聞かないし、話す人によって色眼鏡をかけて聞く。判りやすく言うと。全く同じことを同じようにしゃべっても、Aさんの言うことならOKだが、BさんならNGということがしばしば起こる。聞く耳を持たない人間には何を言っても無駄、というのが現時点の私の実感。
 ーーということからすると、この本に書かれていることに対しては、「そのとおり、でもその前提では物足りない」としか言いようがない。
 結局、何事かをなすのは「人」である以上、人をどう動かすか?ということは非常に大きなテーマになると思うのだけど、それについてはこの本では触れられていません。コッターの「企業変革力」がこの点については示唆に富んでいると思うし、彩雲国物語の茶州での流行病への秀麗の対応なんてのも学ぶところがあるように思っています。

 もちろん、非常に示唆に富む部分もあって、失敗から学ぶには大変な労力が必要で、その影響も考えた際には敢て「学ばない」こともありえる、というのは個人的には目ウロコでした。

amazon: その前提が間違いです。 (講談社BIZ)
amazon: 企業変革力
amazon: 彩雲国物語 心は藍よりも深く (角川ビーンズ文庫)
amazon: 彩雲国物語 光降る碧の大地 (ビーンズ文庫)

 彩雲国物語は長期シリーズで上記だけ読んでもストーリーは??だと思いますが(笑)