牧神の午後の日記

オタク系の話題です

図書館の神様 瀬尾まいこ

 「最初に言っておく。俺はかぁなぁり」主人公の清がキライです。それは、自分にも他人にも厳しすぎて高校時代に部活の仲間(山本さん)を自殺に追い込む一因になったその性格がキライなのではありません。そもそも、彼女を自殺に追い込んだなんて考えるのは、自殺した山本さんへの冒涜になるような気もします。ズルズルと不倫関係を続けているからでもありません。個人的には不倫が出来る性格でもないし、その甲斐性もない(し、そもそも相手がいない)ので、それを羨んでいるわけでもないですよ?(笑)。そんなことよりも、自分のことで手一杯で他人のことを考える余裕のないところが自分自身を見せつけられているようでイヤだという哀しいまでの同族嫌悪を感じるからでした。そんなわけで、薄い本の割に、主人公一人称で進むこの本を読むのはちょっと辛かったり。
 海の見える田舎の学校へ講師として赴任。そこではやりたくもない文芸部の顧問をやらされ(しかも部員は3年一人)、国語の教師もやりたいからやっているわけでもない、たんにやることが見えないから。そんな主人公が、文芸部の活動や特に押しつけがましくもなく、適度な距離感を保ったぬるま湯のような人間関係の中で、少しづつしなやかさ、柔軟さを身に付けるという成長物語。まっとうな意味での読みどころはその主人公と、たった一人の文芸部員垣内君との付かず離れずな交流なんでしょう。文学のことが判らないと開き直る主人公に対して、嫌な顔するでもなく本をうまく奨めたり、強引に図書館の本の大整理(NDCから科目別分類)という力仕事をしたり。そして、解説にも触れられている通りの卒業式に交わすあまりにさりげない言葉と、その後の手紙。静かに余韻が残ります。手紙といえば、その山本さんのご母堂から主人公に届けられる手紙もさりげない優しさに満ちたもので、あぁ、こんな手紙(というか言葉を)、一度は綴ってみたいと思わせるものです。
 でも、でも本読みな人間にとっての一番の読みどころは、垣内君が文学について語るところ。なんというか読書(文学、小説)の快楽を非常に端的に言い当てていて、爽快です。えーと、同じようなことを飲み屋で同僚相手にぐだぐだ言ったことがあるので(恥)、まさに我が意を得たり、でした。

amazon: 図書館の神様