牧神の午後の日記

オタク系の話題です

さよなら私たち 香魚子

 作者は「伯爵と妖精」のコミカライズを手がけていますが、オリジナル作品では初単行本とのこと。4年前のデビュー作から直近(H21/7)の別マ、デラマ、ザ・マーガレットという別マ系の雑誌に掲載された短編集。ぶっちゃけ収録作に統一感があるわけではなく、所々絵が絵が不安定かな?斗思うところもあります。
 しかしながら、統一感がない=話の幅が広いと言うことでもあるわけで、収録作品全てが独特の輝きをもっています。なんというかデビュー作品集故の時分の花とでも申しますか。どの作品も印象に残るエピソード、シーン、テーマがあって、どれか一作品というのは選びにくいですね。
 捻ったな、と思ったのは「失恋ファミリーレストラン」。彼氏の携帯電話からの着信で呼び出された先には5股かけられてた女性達が勢ぞろい。で喧嘩しながら彼氏の嫌な面がドンドン見えてきて彼氏のことを吹っ切るんだけど、実は最後にどんでん返し、という女性のたくましさと口げんかのかしましさのテンポが非常に楽しい作品でした。
 デビュー作の「Us, you and me」は夢(夜見るんじゃない方)がテーマでそれに友情を絡めたり、「夢を諦めるって事は 夢を叶える事と同じ位 難しい斗思う」というネーム、さらにラストの一度は挫折した主人公がもう一度夢を追いかける真っ直ぐさが、相方の女性の屈折した優しさと相まって心に響く作品。表題作になっている「さよなら私たち」も一種の友情の話、なんですかね?死後、三途の川を渡るのに手を繋いだままの二人の女の子、生前の記憶はお互いに一切失われ、お互いに誰か、どんな関係かも判らないのに、手だけは繋いだまま切ることができない。半日のタイムリミットで、自分たちが何者でどんな関係だったのかを探りに元の世界に戻ってみたら、意外な事実が明らかにというところ、二人の関係性の意外性とそれでも切れない絆を感じさせる名作だと思います。
 「伯爵と妖精」のコミカライズがまだまだ続くのはおめでたいことだと思いますが、オリジナル作品もっと読みたいなぁ、と楽しみになる作者さんを見つけられてちょっと嬉しいです。

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