牧神の午後の日記

オタク系の話題です

芸術とスキャンダルの間 戦後美術事件史 大島一洋

 著者は雑誌編集をメインに行ってきた記者。後書きには「スキャンダル性がなければ雑誌は売れない」「人間が一番興味を持つのは、人間の普通でない行為」などある種透徹した言葉が並ぶ。実際、人間活動の中でも最も至高なものの一つ、まさに聖の世界でもある芸術が、茶番と化す瞬間というのがおそらく贋作発見にあるように思う。そこに「スキャンダル」を好む人間の卑しい本性が垣間見えて、自分でも哀しくなるのだけど。
 で、本書では、日本の贋作騒動が第一部。ここではギャラリーフェイクでも取り上げられた佐野乾山、滝川事件、や当代随一の陶芸家唐九郎による永仁の壺 等。第二部では盗難事件と裁判沙汰ということでロートレックの「マルセル」盗難や、赤瀬川原平の模造千円札等が、いかにも雑誌編出者出身の著者らしく、面白おかしく且つ非常に読みやすく描写されている。
 赤瀬川原平の模造千円札は4年ほど前に滋賀県立美術館の企画展「コピーの時代」で「復讐の形態学(殺す前に相手をよく見る)」を見ていたこともあって馴染みがあったり、昭和天皇コラージュ版画なんて、当時富山県にいたはずなのに全然記憶に残っていなかったり(学校で習う美術=自分で創作がダイキライだったから、そもそも美術事件に対する興味がなかったんだと思う)と、個人的な経験とも重ね合わせられたりとちょっと楽しかった。

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滝川事件をモチーフにした「贋作紳士」所収。時々苦い話を混ぜているこの漫画ですが、「贋作紳士」はその中でもきわめつけに読後感の悪いエピソード(褒め言葉です)