牧神の午後の日記

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ワルターの40番

 戦後ウィーン・フィルを振ったブルーノ・ワルターモーツアルト交響曲40番は、自分のクラシック音楽ヲタ人生の原点とも言える演奏だった。
 初めて聞いたときのことを20年以上たった今でも鮮明に覚えている。高校時代の冬休み、当然外は雪。場所は富山県立図書館の試聴室、当時はまだLP。何かクラシックでも聴こうと友人と一緒に行ったそこで、曲だけは知っていた40番、それを聞いたあの時の衝撃。
 あまりに有名な冒頭第一主題、ここをポルタメントで飾ることでロマンティックな甘い演奏と先入観を抱かせながら、展開部にかけての劇性はそのような幻想を打ち砕く、まさにモーツアルトト短調。音楽を聴いてひとりでに涙があふれてきた、というのはあの時が初めてで、自分でもちょっとびっくりしたことまで昨日のように覚えている。第二楽章もリズムを強調しつつ、ヴァイオリンのブリッジ戦慄の寂しさの表出は忘れられない。まるで冬の野中を一人歩く旅人のような趣。そして第三楽章、経過句では興に乗ったワルターの鼻歌が聞こえてくる。おそらく、彼にとってもこの演奏は生涯のなかでも最も印象に残る演奏の一つだったのではないかと思う。そして嵐のような終楽章と終演後の拍手。録音はモノラルだが生々しく、人類の至宝の一つといっても過言ではないと思う。
 録音日付については諸説あるようだが、原盤を持つORF(オーストリア放送協会)の記述を信頼するなら1956年6月24日ということになるらしい。(SONYのCDでは1952年5月18日)、がそんなことはこの音楽に没入するにはなんの意味もない。

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