牧神の午後の日記

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「民族浄化」を裁く

 著者は旧ユーゴ戦犯法廷の判事も務めた元検事。判事時代に扱ったのがブルダニン=タリッチ事件というセルビア人によるエスニッククレンジングの事件だったため、モスリム人が被害者という構図ですが、筆者が最後に少しだけ触れている通り、民族浄化は決してセルビア人の専売特許ということではなく、ユーゴ紛争で立場を変えて起ったことです。昨日まで良き隣人同士だったまさに人種のモザイク地帯で、なぜにスレブレニツァの虐殺のような残虐なことが起ったのかを考えると暗澹たる気分にさせられます。勿論、その罪を一般人から首謀者に帰すということは必要な手続きだと思います。ただ、決して「無かったこと」にはできないし、デイトン合意の後のコソヴォ紛争・空爆後も民族間に傷痕が残り続けている、ということは忘れてはならないことだと思います。
 裁判記録を元に起こした本書は感情を抑えた事実描写とユーゴ紛争の背景を過不足無く描いているだけに、その事件の残虐さ、人間の愚かしさに泣きたくなります。

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