牧神の午後の日記

オタク系の話題です

こころときかいの間の距離は人の心と人の心の間の距離

 柳原望さんの代表作「まるいち的風景」が白泉社文庫全2巻で復刊されました。表情もついかない人間の行動をトレースするだけのロボットまるいちが我々の前に姿を現したのはもう10年以上前。当時はもうちょっと先の夢物語、かと思ったのですが、T越中・おわら風の盆を踊るロボットのCMなんてのを見ると、まるいちももうすぐそこにまで来ているのかも?という気にもなります。
 柳原さんらしく、あくまでまるいちを素材にした、人と人との心の触れ合いが主軸のお話で、一方でまるいちに頼り切ることによる危うさもテーマとして採上げているところは好感が持てます。人間がやるよりも機械でやった方が効率的なところもあるけれど、だからこそ人の感情にはもっと手間ひまをかけてケアしないといけなくなる、という主張が一貫していて、読んでいてとても清々しい気持ちになれます。
 一方で久しぶりに読みましたが、牧内室長の強烈なキャラクターに相変わらず楽しめさせられました。とんでもなくふざけた人間で、自分が楽しむためなら他人の迷惑は顧みない、正直、上司には持ちたくないタイプの人間ですが「ビジネスに感情論を持ち込むな」という相手に対して「逆だよ。世界は感情で回っている。そのおこぼれに預かるのがビジネスさ」とピシャリと言ってのけるところは、むっちゃくちゃ悔しいのですが痺れます。なんのかんのと主人公有里の美質について「履歴書に書けない特技」とか理解しているのも彼の好感度アップに一役買っています。美人の奥さんとかわいらしいお嬢さんを持っているのはズルイですが(笑)。
 その他の開発室の面々も個性的で、でもどこか憎めなく、それぞれが主役をはる話もあって、久しぶりに読んでやっぱり懐かしく楽しめました。
 ああ、それと今回7年ぶりくらいの書き下ろしで、ついに有里と美月さんの関係をはっきりさせ(といっても室長曰く「意識的に関係性を定義する欲求を両方もしくは片方が全く持たない非情に近しい関係」なんで、高が知れていますが)てくれたのが嬉しかったです。その他ページ数の都合で単行本未収録だった話とTIME誌のロボット特集で掲載された漫画が(オリジナルはカラーですが白黒で)収録されているのも嬉しいですね。一方で少し残念だったのが収録順が掲載順になっていなかったことですね。一巻の最期に収録されている話にいきなりリタが出てくるのにいはちょっと面食らいました。

amazon: まるいち的風景 第1巻 (1) (白泉社文庫 や 7-5)
amazon: まるいち的風景 (第2巻) (白泉社文庫 (や-7-6)